



男治癒師と少年騎士の蘇生から始まる奇妙な関係|腐女子向けBLマンガ試し読み
蘇生から始まる 奇妙で淫らな関係…
―これは、治癒師(ヒーラー)が女性の職業とされていた時代のお話。
宮廷騎士団で治癒師として働くことになった 青年・ネブラシスカは、
治癒師唯一の男性である事と内気な性格が相まり 職場で孤立していた。
そんな彼に唯一親切に接してくれたのが、アルフォンソという騎士の少年。
誰にでも親切で向上心に溢れるエリートだが、実は女性が大の苦手で、バディに男であるネブラシスカを希望していた。
理由はともあれ、ネブラシスカはアルフォンソに必要とされることが嬉しく、二人は仕事を通して親しくなっていった。
ところがモンスター討伐の任務の最中、アルフォンソは命を落としてしまう。
ネブラシスカは親友を助けられなかった無力な自分に絶望し、彼を蘇生しようと「禁忌」を施すが……
「これは……、いったい……」
目覚めたアルフォンソは、何かが違うと感じてしまった。
ネブラシスカが行ったのは禁忌といわれる術だった。蘇生術で蘇った者は、生前の記憶を引き継げない。
今のアルフォンソにとって、ネブラシスカは見知らぬ他人も同然なのだ。
それでも二人の関係は変わらなかった。親友を亡くした悲しみは消えなかったが、これ以上自分を責めないようにと、ネブラシスカを励ますアルフォンソ。
自分が女性嫌いになった原因を思い出そうとするも、何も思い出せないアルフォンソ。
そんな中、二人はモンスターの襲撃を受けてしまう。
モンスター達に襲われている中、突然ネブラシスカに接吻されてしまうアルフォンソ。
「大丈夫だ……お前は俺が守る」
ネブラシスカの力強い言葉に、想いが再燃しかけるアルフォンソだが……
「こ、これはダメだ!男には興奮しない!」
アルフォンソは、ネブラシスカを女性として意識し出してしまう。モンスターの群れと戦う二人。ネブラシスカの盾で守られ、モンスターに弓を射るアルフォンソ。
すると突然、体が熱くなり、うずきだす。
「く……な、なんだ……体が……」
「どうした!怪我をしているのか?」
心配してくるネブラシスカに「触らないでくれ!」と叫び、その場から逃げ出してしまうアルフォンソ。
寝室に戻り自慰をするも収まらない。なんとか落ち着くも、それが“男の体”ではなく“女の体”の記憶だった事に驚く。
ネブラシスカの事を考えるだけで体が反応し、アルフォンソは自分の気持ちに向き合う。
「俺は……、ネブラシスカの事が……」
次の日、仕事に向かうと、ネブラシスカが話しかけてきた。
「お前、昨日なんか様子が変だったけど、大丈夫か?」
心配そうに見つめてくる姿に胸が高鳴るアルフォンソ。しかし次の一言で考えを一変させる事となる。
「というかさ、俺とお前は友達なんだから、悩み事はちゃんと言えよ?」
「え……お、俺たちは……親友じゃなかったのか?」
「……は?俺たちって男同士だろ?友達に決まってるじゃん」
「…………そうか」
アルフォンソはネブラシスカと距離を置くようになった。女性になってしまった自分に動揺し、ネブラシスカにどう接していいか分からなくなっていたのだ。
そんな時、偶然出会った女騎士・マリンから、自分が聖女と呼ばれている事を知った。
(俺が聖女?……冗談じゃない!俺は死者の蘇生という禁忌を犯して……)
聖女という呼び名を嫌悪するアルフォンソ。しかしマリンはそんな彼を賞賛し、「私は治癒師様(ヒーラー)だから」と笑いかけてきた。
そして自分が“女性”になった理由を知ってしまう。聖女は、女性の職業だった時代の呼称であった事。
聖女としての能力は、女性として生まれ変わった事で失われたらしいという事も。
(俺は……どうすればいいんだ……?)
ネブラシスカへの想いと、聖女として女性化してしまった自分への葛藤に悩むアルフォンソ。
だが、そんな彼の前にネブラシスカが現れ……
「おい、お前は誰だ?」
「……俺は」
「誰だと聞いている!」
「俺は……」
答えられずにいるアルフォンソ。ネブラシスカはそんな姿に怒りをあらわにし、彼を突き飛ばした。
「っ!な、何をするんだ!」
「うるさい!お前は俺のバディだ!他の誰でもない!お前は……お前だ!男だろうと女だろうと関係ない!」
「!!」
ネブラシスカはアルフォンソの事が分からなかった。だが、聖女・マリンから彼女の秘密を聞き、理解しようとする。
「男でも女でもある……それがお前なんだろ?」
「違う!俺は……俺は……」
「なら聞くが、なんでお前は俺とバディを組んだ?仕事上とはいえ、俺と接してきた?お前が俺のバディなのは間違いないんだろ?」
「……そうだ」
「じゃあやっぱりお前はお前だ。男でも女でもある……それがお前なんだ」
「……」
ネブラシスカの言葉に、アルフォンソはハッとした。
そして自分が聖女として、女性化してしまった事に悩むのがバカらしく思えてきた。
「……そうだな。俺は俺だ!治癒師として失格かもしれないが、治癒師だろうと聖女だろうと関係ない!」
(俺は……俺の意志でこの能力を使ってやる!)
そう決意し、新たなる道へ進むことを決意するアルフォンソだった。
聖女として女性化したアルフォンソが、ネブラシスカに自分の想いを伝えようとするも、再び禁忌を犯してしまう!
「ネブラシスカ……俺はずっとお前が好きだった。お前の気持ちを無視してでも、お前と繋がっていたかった……」
「……なぜ俺なんだ?」
男の身体とはもう別れる事ができない……そう告白し涙を流すアルフォンソを抱いたまま、彼は呟くように聞いた。
「俺にも分からない……だが、この気持ちを抑えられないんだ」
「それで他の男や女にも手を出すのか?」
「違う……俺は、お前が好きなんだ。たとえお前の心が俺に向いていなくても」
「……そうか」
「だから俺を抱いてくれ……お前の熱で俺を溶かしてほしい……」
そして二人は一線を越えてしまった……。だが、アルフォンソは禁忌を犯してしまった事で体が変化していく。
(あっ、力が……)
「どうした?」
「な、なんでもない……」
(そうか……今まではネブラシスカの能力で俺の体を強化していたから、体が女でも耐えられたんだ。でもネブラシスカの能力が消えた今……俺は女性としての力しか残ってないんだ)
そして新たなる禁忌を犯してしまう!
「頼む!俺を捨てないでくれ!」
「アルフォンソ?」
「俺はお前を失いたくないんだ……俺のそばにいてくれ!」
(俺が守ってやるから!俺がずっと側にいてやるから!)
自分の能力で聖女にしがみつかれたまま、困惑するネブラシスカ。
(まったく……こいつは本当にバカだ!)
「お前は本当にバカだよ……俺がお前を捨てるわけないだろう?」
「じゃあ、ずっと俺の側にいてくれるか?もう俺から離れないと約束してくれるか?」
「ああ、約束してやる。お前が嫌がったって離れないし離さない」
「……嬉しい……俺も離さないからな」
(ははっ、可愛い奴め)
ネブラシスカは、アルフォンソが女性化した事を受け止め、彼女を受け入れる事を決めた。そして二人は改めて結ばれる。
そんな二人を見て、マリンは安心したように微笑んだ。
「よかった……これで二人はずっと一緒ね」
しかし、アルフォンソはまだネブラシスカの能力に囚われている事が気がかりだった。
(本当に大丈夫か?このままでは俺はまた禁忌を侵してしまうかもしれない)
悩むアルフォンソにネブラシスカは言った。
「いいか?俺はお前がどんな姿でも気にしない」
「ネブラシスカ……」
「だから心配するな!」
「……ありがとう」
二人はまだ若い。だからこそ互いの事を思い合い、支え合えるのだろう。
そして二人は仕事でもプライベートでも、ずっと一緒にいるようになった。
聖女であるアルフォンソと、そのバディのネブラシスカは、辺境の村で暮らすようになっていた。
「ネブラシスカ……愛している」
「俺もだよ」
「ふふっ」
(幸せだな……)
そんな二人の様子を、遠くから見つめる男の姿があった。
彼の名はティーエン……かつての親友だ。だが今の彼は、かつての面影は全く残っていない。
「親友の俺が心配して様子を見に来てやったが……あいつは完全に変わってしまったな」
ティーエンはかつての仲間に失望し、その場を去っていった。
しかし彼は気づかなかった。自らに向けられた視線に……。
村に住むようになり、二人は幸せな日々を送るようになっていった。だが、そんな二人を引き裂く出来事が起きる。
ある日の夜中、アルフォンソはトイレに行きたくなり目を覚ました。そして隣を見るとネブラシスカがいない事に気づく。
(どこに行ったんだ?)
アルフォンソはネブラシスカを探しに部屋を出た。すると、ある部屋から話し声が聞こえてきた。
「ネブラシスカ……?」
気になったアルフォンソはその部屋に近づくと、部屋の中から二人の声が聞こえた。
『ふふっ』
『はぁ……はぁ……』
(なんだ?何を話しているんだ?)
疑問に思ったアルフォンソはそっと中を覗き込んだ。するとそこには……
(っ!!)
ティーエンが、ネブラシスカに覆いかぶさり行為している姿が目に映った!「な、何をやってるんだ!?」
思わず飛び出したアルフォンソに、二人は驚く。そしてティーエンが慌てて言い訳をし始めた。
「こ、これは違う!俺はこいつのバディとして……その……身の回りの世話をしていただけだ!」
(何を言っているんだ!?バディならどうしてネブラシスカにこんな……)
混乱するアルフォンソを宥めるように、ネブラシスカが話しかけた。
「違うんだ!これは合意の上だ……何も問題はない」
(問題……?問題ってなんだ?)
混乱するアルフォンソに、ティーエンは語り始める。
「お前たちは誤解している……俺たちは愛し合っているんだ!」
(あいしあってる?)
「そうだ!俺とこいつは愛し合っているんだ!だから、こいつは俺に抱かれて当然だ!」
(ネブラシスカがこの男に抱かれている……?)
「っ……!」
動揺するアルフォンソをよそに、二人は更に話し続ける。
「そうだろ?」
「ああ、俺だって愛していた……ティーエンの事を」
(あいしている……?)
「そうだな。お前は俺と愛を誓い合ったよな?」
「ああ、だから俺はお前のものになる事にしたんだ」
「嬉しいよ……これで俺たちは永遠に一緒だ」
(にどといっしょ?……どういうことだ?)
二人の会話を聞きながら混乱するアルフォンソ。そしてやがて彼は一つの結論に行き着く。
(そうか……そういう事か……)
アルフォンソは絶望した。自分が女性になってしまったように、ネブラシスカも禁忌を犯してしまったのだ。
(ネブラシスカは……俺の知らないところで変わってしまったんだ……)
「どうしたんだ?アルフォンソ」
「さあ、こっちにおいで」
二人はアルフォンソを誘い込む。だが彼は拒否した。
(なぜ俺がお前たちを受け入れなければならないんだ?俺はお前たちとは違う!)
そして彼は、ネブラシスカに別れを告げた。
「……お前とは別れる。そして二度と会う事はないだろう」
(俺たちは愛し合っている訳じゃない。お前が一方的に俺を愛していただけだ)
「何を言っているんだ?アルフォンソ」
(お前が俺の事を愛していても、俺がお前の事を愛していないんだ!)
「さようなら……ネブラシスカ」
そう言って立ち去ろうとするアルフォンソに、ティーエンが叫んだ。
「待てよ!そいつと結ばれても幸せにはなれないぞ!」
(うるさい!お前に俺たちの何が分かる!?)
「そんな事ない!俺は幸せだ!」
ネブラシスカは叫ぶが、それを聞かずに立ち去るアルフォンソ。その後姿を呆然と見つめた後、ネブラシスカは涙を流した。
「アルフォンソ……どうして……」
ネブラシスカの絶望した表情を見て、ティーエンはニヤニヤと笑みを浮かべる。
「やはりこうなったか……お前の愛じゃ俺の愛には勝てなかったようだな」
(この男の言っている事は分からないが、俺はもう関係ない)
去っていくアルフォンソに、ネブラシスカは涙を流すしかなかった。そして二人はそのまま別れる事になった。
(これでいいんだ)
自分に言い聞かせるように心の中で呟くアルフォンソだった。
ネブラシスカと別れた後、アルフォンソは一人で各地を旅していた。そんな時、彼はとある村で一人の男と出会う。
「ん?あんたは……見かけない顔だね」
男は村の村長だった。村人とは違い、ローブを着た奇妙な男に不信感を抱く村長だったが……
「旅の者だ……」
とだけ答えた。そんなアルフォンソに、村長は温かい飲み物を振る舞う。
「まあ、ゆっくりしていきなさい」
(なぜ俺に優しくする?)
不思議に思いながらも、飲み物を飲むアルフォンソ。
(懐かしい……昔飲んだ味だ)
その飲み物は、アルフォンソが幼かった頃、ネブラシスカと一緒に飲んだ思い出の飲み物だった。
(なぜ今、こんなことを思い出すんだ……?)
戸惑うアルフォンソを見て、村長は言った。
「懐かしいかい?」
「え?」
「そのお茶だよ」
(なぜ分かるんだ?)
驚く彼に村長はさらに言う。
「そのお茶はね、私達の大切な思い出でもあるんだ」
「大切な思い出?」
「ああ……そのお茶はな、あんたと同じ旅人から貰ったものなんだ」
「っ!!」
(同じ旅人から……?)
村長の言葉に動揺するアルフォンソ。そして村長は続ける。
「そいつはな……自分の事をネブラシスカだと名乗ったんだよ」
(っ!なぜその名前を!?)
驚く彼に村長はさらに言う。
「あんたと同じ名前だったよ……」
(俺と同じ名前?どういう事だ?)
困惑するアルフォンソに、村長は衝撃的な言葉を告げた。
「あんた、ネブラシスカだろう?」
「ど、どうしてそれを……?」
驚くアルフォンソに、村長は語る。
「あんたはあの旅人から貰ったお茶を飲んだ時……懐かしそうな顔をしていたからな」
「っ!!」
(この爺さんも俺の心を読んでいるのか?)
驚くアルフォンソだったが、さらに驚くべき事に気付く。
(待てよ……俺の心を読んでいる?まさかネブラシスカの能力なのか!?)
「そうだよ。俺があいつの能力を引き継いだんだ」
「なっ!?」
(人の心を読める能力!?)
驚くアルフォンソに、村長は言った。
「ああ、だからあんたの事も知っているよ。そしてあんたがネブラシスカを愛していた事も」
(なっ!なぜそこまで分かるんだ?)
驚愕する彼に村長は語る。
「ネブラシスカの能力を引き継ぐ前に、あいつから自分の能力の事について全て聞いたからな」
「そうか……」
(それなら納得できる)
納得するアルフォンソに村長は言った。
「あんた、ネブラシスカの能力を引き継いだせいで苦しんでいるな?」
(なぜ分かるんだ?)
「今のあんたは……昔見たあいつと同じだ……俺もかつてはそういう男だった」
(そうだったのか……)
「だからこそ、あんたが心配なんだよ」
そう言って村長は語り始めた。