とある侯爵家の嫡男ミケルと使用人クレア。
使用人は嫡男に見初められ、自身も嫡男に惹かれ始める。
そんな中、継母に”あること”を命じられ、それを隠そうとする使用人。
「クレア、お前は嘘が下手だね」
使用人は嫡男から隠し事を問い詰められ…
次期侯爵様が暇乞いを許さない-answer-|試し読み
次期侯爵様が暇乞いを許さない-answer-|登場人物
【ミケル】
侯爵家嫡男。
兄弟はいない。
【クレア】
子爵家の妾の娘。
継母と異母妹がいる。
次期侯爵様が暇乞いを許さない-answer-|あらすじ・オリジナル
とある侯爵家の嫡男ミケルと使用人クレア。
使用人は嫡男に見初められ、自身も嫡男に惹かれ始める。
そんな中、継母に”あること”を命じられ、それを隠そうとする使用人。
「クレア、お前は嘘が下手だね」
使用人は嫡男から隠し事を問い詰められ…?!
―――
「あー、なるほど……?」
恋愛ものなのかな、これ。
まぁ、いいや。読んでみよう。
「お嬢様、おはようございます」
「おはよう、クレア」
「昨晩はよく眠れましたか?」
「えぇ、とてもよく眠れたわ」
「それはよかったです!」
私は今、寝不足である。
なぜかというと……、昨日借りてきた本を読んでいたからだ。
いや、面白かったよ!? でもさ、まさかあのシーンの後にあんな展開になると思わないじゃん!!『…………っ』
『もう観念したらどうだい?』
『……嫌です!』
『強情なお姫様だね……。僕をそんなにも困らせたいのかい?』
『だって……、貴方には婚約者がいるじゃないですか!!』
『それが何だというんだい?僕は君を愛しているんだよ?』
『っ!いけません、こんなことは間違っています!』
『君は僕を拒むのか……?』
『そうです!』
『……なら仕方ないね』
『きゃあああっ!!』……その後の展開は皆さんもご存知の通りですよ。
いや~、面白いけどね! なんかこう……モヤッとするんですよ!!
「ふぅ……」
「どうかなさいましたか?」
「いえ、何でもないわ」
危ない危ない、つい溜め息が出てしまった。
「今日のお茶菓子は何かしら?」
「今日はアップルパイでございます」
「あら、そうなの。楽しみにしているわ」……本当はあんまり甘いものは好きではないのだけれど。
前世では結構食べていたし、この世界に来てからはお母様に禁止されていないからたまに食べるようにしている。
といっても週に1回くらいだけど。
「美味しいですね!」
「そうね」……うん、やっぱり苦手だわ。
口の中に広がる甘さが気持ち悪い。
それにしても、この紅茶は本当に美味しいわね。
茶葉が良いのか、それとも腕の良いメイドさんが入れてくれてるからなのかな? もし後者だったら是非うちの使用人に欲しいわね。……そうだ、いいことを思いついた!
「ねぇ、クレア」
「はい、なんでしょうか?」
「私、あなたが入れる紅茶を飲みたいわ」
「私が……ですか?」
「えぇ、駄目かしら?」
「いえ、滅相もないです!!」
「じゃあ、お願いするわね」
「はい、畏まりました!」……ふっふっふ、これで優秀な使用人をゲットしたぞ! ***……なんて思っていた時期もありました。
今はその考えを改めています。
「……どうして上手くならないのかしら?」
「すみません、申し訳ありません……」
「謝ってほしいわけじゃないのよ?」
「はい、承知しております……」
「……」
「……」
沈黙が続く中、カチャリとティーカップを置く音が響く。……そう、何故か全く上達しないのです。
「うぅ……」
「……別に無理して飲まなくても良いのよ?」
「いえ、そういうわけにはいきません!せっかくお嬢様のために入れたんですから!!」
「そ、そう……」
そんな風に言われたら何も言えなくなるじゃない……。
あぁ、もう!どうしてこんなことになってしまったのよ!! 事の始まりは2週間程前のこと―――
「お父様、相談したいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「なんだ、言ってみろ」
「ありがとうございます。実は私の専属メイドについてなのですが―……」
「却下だ」
「まだ最後まで話していないのですが!?」
「どうせお前のことだからそのメイドを自分の侍女にすると言いたいのだろう?」
「流石お父様ですわ!話が早くて助かります!」
「お前は少し黙っていろ」
「お父様ひどいですわ!」
「酷くない」
むぅ……。でも確かに今のお父様の言い方だと娘より使用人の肩を持つことになるよね……。
それはそれでなんかムカつくかも……。
「とにかくだ、私は反対だ。諦めるんだな」
「そんなぁ……。分かりました、今回は引き下がりますわ」……ということがあったのだ。
それからというもの、隙を見ては何度も説得を試みたのだが全て失敗に終わった。
そして現在に至る。
どうしたものか……。「はぁ……」
「どうかなさいましたか?」
「なんでもないわ」
「そうですか。何かありましたらすぐに仰ってくださいね!」
「分かってるわ」……言えない、言えるはずがない。
だって、あなたのことで悩んでいるだなんて恥ずかしくて死んでも言えないもの!!
「さっきから様子がおかしいですけど大丈夫ですか?熱でもあるんじゃ……」
「ひゃっ!?」
いきなり額に手を当てられて変な声が出てしまった。……顔が熱い、絶対赤くなってる……。
「やはり熱があるようですね……!今日は早めに休まれた方が良いと思います!」
「いや、でも」
「駄目です!そんな体調で勉強しても身に付きませんからね!」
「……」
それは困った。
私としては一刻も早く解決しなければならない問題なのだけれど……仕方ないか。
「分かったわ。今日のところは休むことにするわね」
「それが宜しいかと!」
「……」……なんか納得いかない。
「お嬢様?どうかなさいましたか?」
「いえ、何でもないわ」……まぁ、いっか。
こうして私は自室へと戻った。……